スカルラッティ:ソナタK426、K461
フィールド:夜想曲第2番ハ短調
フィールド:夜想曲第4番イ長調
ショパン:ポロネーズ第8番ニ短調 作品71-1
ショパン:夜想曲第5番嬰ヘ長調 作品15-1
ショパン:舟歌
ブゾーニ:カルメン幻想曲
ベートーヴェン:ソナタ第15番ニ長調「田園」
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広大なレパートリーに反比例しない解釈の深さに驚愕
~使い込んだバーバリーのトレンチコートのような、深く奥行きある味わい~
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ベートーヴェンの頃からもう、英国はピアノ先進国だった。かの楽聖もわざわざロンドンのブロードウッドが造ったピアノをウィーンに取り寄せ、パリでは英国製ピアノを続々輸入、ロシアでもクレメンティやフィールドが英国発のピアノ文化を根づかせ、そうやってヨーロッパがピアノというものを知ってきたのが19世紀。かたや島国だからこその距離感で、大陸の美術や音楽と客観的に接しながら、どの国の文化もすべてバランスよく、かつ貪欲に味わってきたのも英国人たちだった。
そのピアノ大国・英国にあって、ロンドンの伝説的名教師マセイ(1858-1945)の系譜に連なるファニー・ウォーターマンの教えを受けたベンジャミン・フリスが織りなすステージの魅力は、何より選曲の妙にあらわれている。ショパンに先んじて夜想曲を続々書いたフィールドを軸に、18世紀のスカルラッティから近代人ブゾーニまで、ブレのない物語。膨大な数にのぼる彼の録音物を個々に聴いていたのではわからない、英国ならではの「さりげない洗練」に触れられる彼のリサイタルは、主催者たちの熱心な誘いにもかかわらず、英国でさえめったに実現しない。
かつてクリスティズやサザビーズなどの世界的美術オークションを養ってきた、趣味よく調えられてきた英国人たちの美術コレクションのように、鍵盤音楽史の流れに連なる逸品をバランスよく味わえる、そんな音楽の場 ― 千載一遇の機会が、ここに到来する。